(短編)三つの得意曲

文学・芸術

19世紀のある街に、シュトラウスとマイヤーという二人のピアニストがいました。

二人が直接関わることはありませんでしたが、お互いの名声は知っていました。

シュトラウスには、三つの得意曲がありました。

その三曲を弾かせたら、彼の右に出る者はいません。

マイヤーにも、別の三つの得意曲がありました。こちらも、誰も彼以上に美しく弾くことはできませんでした。

街の人々は、シュトラウスには、いつもその三曲を弾くよう依頼しました。

マイヤーにも、やはり彼の得意な三曲ばかりが頼まれました。

シュトラウスは、ある日、得意な三曲を弾くことをやめました。

街の人々は残念がりました。

「シュトラウスのあの曲が聴きたかったのに」と。

一方、マイヤーは、頼まれればいつでも得意な三曲を弾きました。

街の人々は喜びました。

彼の演奏は、いつも素晴らしかったからです。

シュトラウスへの演奏依頼は、次第に少なくなっていきました。

けれども、シュトラウスは気にしませんでした。

これまであまり弾いたことのなかった曲を、次々と弾いてみました。

知らない曲に挑戦することもありました。

うまく弾けないこともありました。

それでも、シュトラウスはさまざまな曲を弾くことを楽しむようになりました。

一方のマイヤーは、ある日、不慮の事故で亡くなってしまいました。

シュトラウスは、生前、マイヤーと親しく関わることはありませんでした。

それでも、葬儀には参列しました。

その夜。

シュトラウスがいつものようにピアノを弾いていると、部屋の隅に置かれた椅子に、亡くなったはずのマイヤーが座っていました。

シュトラウスは驚きました。

マイヤーは、静かに言いました。

「私は、街の人たちに頼まれて、三つの曲ばかりを弾いて過ごしていた。でも……もっとたくさんの曲を弾いてみたかった」

シュトラウスは何も言わず、マイヤーを自分のピアノの前へ案内しました。

マイヤーは微笑み、椅子に座ると、ピアノを弾き始めました。

シュトラウスは、しばらくソファーに座って、その音色を聴いていました。

やがて、心地よい音色に包まれながら、眠りに落ちました。

目を覚ますと、部屋には誰もいませんでした。

マイヤーの姿も、ありませんでした。

ただ、ピアノだけが、静かにそこにありました。

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