「日本人はNOと言えない」
そんな指摘を耳にすることがあります。
確かに欧米文化では、自分の意見や立場を明確に表明することが重視される傾向があります。一方、日本人は曖昧な表現を好み、はっきり答えないと言われることがあります。
しかし、本当にそれは欠点なのでしょうか。
人生の重要な問題ほど、簡単にYESともNOとも言えないことが少なくありません。
今の仕事を続けるべきか。
離婚するべきか。
子どもの進路をどうするか。
病気とどう向き合うか。
こうした問いに対して、心の中では賛成と反対の気持ちが同時に存在していることも珍しくありません。
「辞めたい。でも辞めたくない」
「挑戦したい。でも怖い」
「好きだけれど腹も立つ」
人間の心はもともと矛盾を含んでいます。
そのため、簡単にYESかNOかを言い切れない状態の方が、むしろ正直な心の姿である場合もあります。
心は曖昧でも、行動は決めなければならない
ただし、現実の世界では行動を選ばなければなりません。
仕事に行くのか。
試験を受けるのか。
人に連絡するのか。
迷いが残っていても、行動は待ってくれません。
日本人が決断できないわけではありません。
むしろ、迷いがあることを認めながら、それでも行動を選ぶことが多いように思います。
後ろ髪を引かれながらも進学を決める。
不安を抱えながらも就職する。
悩みながらも結婚する。
気持ちが100%固まってから行動するわけではありません。
森田療法が重視するもの
森田療法も、このような人間観を持っています。
森田療法では、まず気持ちを無理に整理しようとはしません。
「本当にやりたいのか確認しましょう」
「納得してから動きましょう」
とも言いません。
むしろ、
「今のあなたには迷いもあるでしょう」
「不安もあるでしょう」
「そのままでいいから、まず必要な行動をしてみましょう」
という立場を取ります。
YESかNOかをはっきりさせることよりも、現実との関わりの中で一歩を踏み出すことを重視します。
仁泉堂医院が求めるもの
仁泉堂医院でも、明確なYESやNOを求めることはありません。
無理に前向きになる必要もありません。
立派な決意表明も必要ありません。
「どうしたらいいかわからない」
「やりたい気持ちもあるし、やりたくない気持ちもある」
それで構いません。
ただし、行動は求めます。
小さくてもいい。
不完全でもいい。
考え続けるだけではなく、現実の世界に働きかけること。
その積み重ねの中で、人は少しずつ変化していくからです。
森田療法は、西洋から輸入された心理療法ではありません。
日本で生まれ、日本人の生活感覚の中から育ってきた治療法です。
YESかNOかを急がず、心の曖昧さをそのまま認めながら、それでも現実の行動を大切にする。
そこには、日本人らしい人間理解が息づいているように思います。

コメント