スロー・メンタルヘルス・第②回― 心の問題にも「スロー」という選択を

仁泉堂医院

前回は、「スローシティ」という考え方を紹介しました。

早さ、安さ、便利さばかりを追い求めるのではなく、地域の文化や自然、そこに暮らす人々の生活の質を大切にする。そんなスローシティの考え方は、私たちの暮らしを見直すきっかけになります。

私は、この考え方が心の健康についても当てはまると思っています。

メンタルヘルスにも、ファストとスローがある

現代のメンタルヘルスでは、早く問題を解決することが求められます。

つらい症状があれば診断をつけ、薬を処方し、必要に応じて診断書を発行する。こうした対応が役立つ場面は、もちろんあります。

精神科救急など、迅速な判断と治療が必要な場面もあります。必要な医療を遅らせてよいわけではありません。

しかし、あらゆる心の問題に対して、同じように迅速な解決を求めると、見落とされてしまうものもあります。

診断によって問題を分類し、薬によって症状を抑え、診断書によって職場や学校などの関係システムに働きかける。

こうした一連の対応は、短期間で問題を解決する方法として、わかりやすく便利なものです。

けれども、それだけで一人ひとりの抱えている問題を十分に理解できるでしょうか。

人が悩みながら暮らしている背景には、それぞれの生活があり、人間関係があり、その人なりの物事の受け止め方があります。

そうしたことを十分に確かめないまま、早く結論を出そうとすれば、その人自身の体験や生活の実情が置き去りになってしまうこともあります。

すぐに答えを出さないということ

心の問題は、必ずしも、早く取り除けばそれでよいというものではありません。

すぐに答えを出さず、目の前の事実を確かめ、その人が実際の生活の中で体験していくことを大切にする。そうした時間が必要な場合もあるのです。

たとえば、不安があるとき、私たちは不安をなくしてから行動しようとすることがあります。しかし、実際には、不安が残ったままでもできることがあります。

不安をなくすことだけに集中するのではなく、不安があるという現実も含めて、目の前のことに取り組んでみる。そうした体験を重ねる中で、これまでとは違う可能性が見えてくることもあります。

これは、ただ時間をかけて様子を見るということではありません。

すぐに結論を出すことを控えながら、目の前の現実に丁寧に取り組んでいくことです。

仁泉堂が大切にしていること

仁泉堂では、一人ひとりの話を丁寧にうかがい、目の前で起きていることを確かめながら診療を進めています。

安易に診断名をつけたり、薬や診断書によって問題を解決しようとしたりするのではなく、その人が自分の生活の中で体験を重ねていくことを大切にしています。

もちろん、早く答えを出すことが、いつも悪いわけではありません。薬や診断書が必要な方もいますし、迅速な医療が求められる状況もあります。

仁泉堂では、そうした対応を一律に否定するのではなく、診療の場で何を大切にするのかを考えています。

早く答えを出すことよりも、丁寧に事実を確かめること。すぐに問題を解決しようとすることよりも、現実の生活の中で一つひとつ体験していくこと。

私は、そこにメンタルヘルスにおける「スロー」の価値があると考えています。

前橋で、スロー・メンタルヘルスを

スローとは、ただ時間をかければよいということではありません。

必要なときには迅速に対応しながらも、急がなくてよいところでは、性急に結論を出さないこと。その場に応じて、丁寧に取り組むことではないでしょうか。

スローシティ前橋・赤城の取り組みを応援しながら、私も前橋の地で、心の健康について同じような姿勢を大切にしていきたいと思います。

早さや便利さだけでは測れない、一人ひとりの暮らしと体験を大切にする。

仁泉堂は、そんな「スロー・メンタルヘルス」を実践していきたいと考えています。

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