黒いピースも、人生の一部かもしれません

仁泉堂医院

ある患者さんとの対話の中で、今も印象に残っているやり取りがあります。

その方が、ふとこんな言葉を口にされました。

「生活のひとつひとつの体験は、パズルのピースのようなものだと思うんです」

その瞬間、私の頭の中には一枚の黒いピースが浮かびました。
見た目は重たく、できれば使いたくない色です。
「こんな色は好きではないな」と感じながらも、捨てることはせず、箱の片隅にそっと置いておく。そんなイメージでした。

ところが、その後ほかのピースが少しずつ集まり、全体像が見え始めると、思いがけないことが起こります。

あの黒いピースは、ただの不要な欠片ではなく、光り輝く鳳凰(火の鳥)の美しい目だった――。

そんな情景が、心の中に鮮やかに浮かびました。

そのとき、私が患者さんにどのような言葉を返したのか、正確には覚えていません。
けれど、その比喩を通して、診察室がとても創造的で、温かな空間になったことははっきり覚えています。

私自身にも、黒いピースがあります。

高校時代、友人との口論をきっかけに疎遠になり、そのまま卒業してしまったこと。
大学院で研究していた頃、自分の対人関係の未熟さを痛感したこと。

振り返れば、できれば見たくない出来事です。
もっと語りにくいピース、まだ簡単には思い出せないピースもあるのかもしれません。

しかし、今は無理に捨てなくてよいのだと思います。

意味がわからないままでも、片隅に置いておけばよい。
いつか別の経験とつながったとき、それが全体に欠かせない一片だったと気づく日が来るかもしれません。

人生の途中では、完成図は見えません。
だからこそ、黒いピースも捨てずに持っておく価値があるのだと思います。

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