前回、
仁泉堂では、医師が患者さんに
薬や診断、考えの方向性を与えない、
という話を書きました。
では、
何も与えないのだとしたら、
ここではいったい何をしているのでしょうか。
私は、自分の役割を
「場の管理者」だと考えています。
人生が「選択する行為」だとするなら、
人は本来、
もっと多くの選択肢を持って生きているはずです。
けれど、不安や恐れが強くなると、
世界は一気に狭くなります。
「こうするしかない」
「もう他に道はない」
そう感じているとき、
実際に選択肢が消えているのではなく、
世界が閉じてしまっているだけなのかもしれません。
仁泉堂で私がしているのは、
その閉じた世界を、
少しだけ開くための場を整えることです。
答えを出さないこと。
評価しないこと。
正解を急がないこと。
そうした環境の中で、
患者さんは、自分でも気づいていなかった
考えや感覚、行動の選択肢に
ふと出会うことがあります。
私は、「こちらが正しい」と示すことはしませんし、
「その道を選びなさい」と勧めることもしません。
ただ、
「それ以外の選び方も、ここにありますよ」
と、世界を広げる場を用意しているだけです。
治療とは、
新しい何かを足すことではなく、
本来そこにあった可能性に
再び気づいていく過程なのかもしれません。
仁泉堂は、
患者さんの人生の選択を
評価する場では決してありませんし、
私は、
患者さんの人生の選択の
後押しさえしません。
仁泉堂は、
人生が、思っているよりも
ずっと多くの選択肢に開かれていることを、
体験的に思い出していく場です。
その場を整え、保ち続けること。
それが、
ここで私がしている仕事です。

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