「頑張らなくていい」が届かないとき

仁泉堂医院

仕事や家事、勉強などに一生懸命取り組んでいる人を見て、「そんなに頑張らなくていいよ」と声をかけることがあります。相手を気遣う、やさしい言葉ですし、その気持ち自体はとても大切なものです。

しかし実際には、「頑張りすぎているな」「少し無理をしているな」と感じる人ほど、この言葉があまり役に立たないことがあります。

「頑張らないようにしよう」と意識しても、かえって力が入ってしまう人もいます。また、仕事や作業を止めることはできても、何をしても気持ちが晴れず、意欲そのものが低下してしまう人も少なくありません。

無理に変えようとしても、うまくいかないことがある

私自身、精神療法を専門とする者として、患者さんの心に向き合う時間を長く過ごしてきました。

以前、ある方から「患者さんの心に近づきすぎるから疲れるのではないか」「自分と患者さんとの間に境界を引くことが大切ですよ」と助言をいただいたことがあります。

その言葉を受けて、「もう少し距離を取ったほうがよいのだろうか」と試行錯誤してみました。しかし、診療のあり方が大きく変わることはありませんでした。

今振り返ると、それは当然だったように思います。

診療のスタイルは、その人の性格や歩んできた人生、学んできた知識、そして数多くの臨床経験の積み重ねによって形づくられています。それを無理に変えようとしても、かえって不自然になってしまうことがあります。

心が喜ぶことにエネルギーを向ける

その後、私はトレイルランニングで心身を整えたり、森田療法の実践や研究に取り組んだりと、自分が「やっていて心地よい」と感じることに積極的に時間とエネルギーを注ぐようになりました。

すると、不思議なことに、診療に対する過剰な力みや神経質さが自然と和らぎ、以前よりも落ち着いて患者さんと向き合えるようになったのです。

「頑張らないようにする」のではなく、「私自身が好ましいと感じることに力を注ぐ」。その積み重ねの中で、仕事との向き合い方も自然と整っていきました。

頑張ることをやめるのではなく、頑張る方向を見直す

疲れを感じているとき、「頑張ること」そのものが問題なのではないかもしれません。

もしかすると、自分にとって好ましくない仕事や作業に、長い時間エネルギーを使い続けていることが疲労の原因になっているのではないでしょうか。

そのようなときは、「頑張るのをやめよう」と考えるよりも、自分が価値を感じられること、自ずと動き出せることへエネルギーを向けてみることをおすすめします。

頑張ることを否定する必要はありません。

大切なのは、「何を頑張るのか」という方向を見直すことです。

心が納得できる対象に力を注げるようになると、不思議と過度な力みは和らぎ、本来の自分らしい働き方や生き方が少しずつ整っていくものです。

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