「タイパ」「コスパ」という言葉が、すっかり日常に定着しました。
できるだけ短時間で、無駄なく、便利に。
仕事でも生活でも、その姿勢が良しとされる時代です。
けれど私は、一見すると無駄に見える時間や、不便さの中にこそ、心の豊かさが育つと感じています。
精神科の診察でも、「要点だけを手早く」「結論をすぐに」という期待を感じることがあります。
もちろん、整理された言葉は便利です。
言語は、経験を共有するための優れた道具でもあります。
ただ、不安・うつ、ストレスといった言葉は、あまりにも便利であるがゆえに、
その人固有の体験や感覚の細部を、すくい落としてしまうことがあります。
最短ルートでは見えないもの
たとえば旅行を考えてみてください。
目的地制覇を最優先すると、最短ルートを移動し、名所だけを巡ることになります。
効率は良いかもしれませんが、その街の空気や、人の気配、何気ない風景に触れる機会は失われます。
心も同じです。
「何が問題なのか」「どうすればよくなるのか」だけを急いで言葉にすると、
今ここで感じている違和感や、言葉になる前の感覚が置き去りになります。
心を豊かにするとは、結論を早く出すことではなく、
今この瞬間の感覚を、丁寧に味わうことなのだと思います。
便利さが奪うもの
選択肢は減り、工夫する余地がなくなる。
それは、心の貧しさにもつながっていきます。
現代に神経症的な悩みが溢れている背景には、
効率と便利さを過度に重視する社会の空気があるように感じています。
仁泉堂が「時間」を大切にする理由
仁泉堂では、診察に一定の時間を確保することを大切にしています。
それは、効率では測れない大切なプロセスが、心の回復には必要だと考えているからです。
効率よりも「味わい」を。
便利さよりも「創意工夫」を。
そんな時間を、意識的に取り戻してみませんか。
心は、急がせた分だけ、遠ざかってしまうこともあるのです。

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