「心を病む」とは本当はどういうことか?

精神医学・精神医療

「心を病む」という言葉を、私たちは日常の中でよく耳にします。でも、医師として私は、この表現には少し立ち止まって考えるべき点があると思っています。

医学では「病む」とは、身体のどこかの臓器に異常がある状態を指します。精神科でも、統合失調症や双極性障害など、脳という臓器に明らかな変化がある場合には、薬による治療が必要です。

一方で、日々の生活の中で起きるつらさや行き詰まりを、「病気」と捉えてしまうと、本来必要な介入方法を見誤ることがあります。

たとえば、職場や家庭での悩み、人との関係の中で感じる苦しさは、脳の病気ではなく、生き方や考え方、環境との関係の問題かもしれません。このような場合、本当に必要なのは、薬ではなく、「新しい見方」や「関係の変化」など、自分を取り巻く状況との向き合い方の見直しです。

「社会が病んでいる」と言うとき、そこに使う薬は政策や制度の改革です。心の苦しみに対しても、同じように考えてみる必要があります。

苦しみをすぐに医学的な「病気」と決めつけず、自分の力で変えていける部分にも目を向けてみてください。「本当に必要な処方箋」は物質ではないかもしれません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました