アスリートのメンタルケアと神経症治療の共通点

仁泉堂医院

人間の心は、しばしば現実を歪めて捉えてしまいます。神経症の患者さんは、「起きてもいないこと」を恐れ、「変えられないもの」をなんとか変えようと焦ります。そしてその努力が、かえって不安を強め、心を疲弊させていくのです。

同じことが、アスリートの世界にも見られます。

「もっと速く走らなくては」「勝たなければ意味がない」

そんな焦りから、自分の現実の身体の状態を無視して無理を重ねてしまうこともあれば、「自分には無理だ」と負の自己暗示に引きずられて、挑戦すらできなくなることもあります。

アスリートの向上心は素晴らしいものです。しかしそれが、「現実の自分」と乖離してしまうと、身体にも心にも悪影響を及ぼします。

本当に必要なのは、等身大の自分に向き合うことです。

今の身体の感覚に耳を澄ませ、そこからできることを一歩ずつ積み重ねていく。頭で考えて決めつけるのではなく、身体と心が協調して判断できるようになること。これが、自然の摂理に沿った「回復」と「成長」の道です。

等身大の自分に向き合うということは、すなわち「あるがまま」を受け入れるということです。神経症の治療においても、アスリートのメンタルケアにおいても、それが大切です。

私がアスリートのメンタルケアに取り組むのは、パフォーマンスの向上だけでなく、心と身体が自然な形で調和し、自分自身を信じられるようになってほしいからです。

焦らず、恐れず、今の自分に誠実であること。

それが、結果として自らの最高地点に辿り着くための心の在り方だと私は考えています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました