苦悩を和らげる言葉:「越したことはない」のすすめ

森田療法

「越したことはない」という考え方

私の出身校である群馬大学の先輩で、周産期メンタルヘルスを専門にされている高橋由美子先生の講演を聴いた際、心に残る言葉がありました。先生は、悩みを抱えるママさんたちへのアドバイスに「越したことはない」という表現を使うことを勧めていました。

たとえば、

「赤ちゃんが寝てくれるに越したことはない」

「パパが手伝ってくれるに越したことはない」

というように。

この言葉にはどんな力があるのでしょうか?

辞書には「最善である」という意味が載っていますが、私はそれだけではないと思います。むしろ大切なのは、「思い通りにコントロールできるものではないから、そうならなくても仕方がない」というニュアンスが含まれていることです。

たとえば、「旅行の日は晴れるに越したことはない」「災害は起きないに越したことはない」といった使い方にもこのニュアンスが感じられます。つまり、「そうなることが理想だけれど、そうならなくても受け入れる」という柔らかな受容の姿勢が込められているのです。

神経症の苦悩にも応用できる言葉

この「越したことはない」という言葉は、外来森田療法でも活用できるのではないかと思います。

たとえば、

「眠れない」

「人前で緊張してしまう」

といった悩みを抱えている患者さんに対して、次のように言い換えるのです。

「眠れるに越したことはない」

「人前で緊張しないに越したことはない」

眠りや緊張といったものは、意識的にコントロールできるものではありません。それを「なんとかしよう」と必死に努力することで、かえって苦しみが増してしまうことも多いのです。

「越したことはない」という言葉を使うことで、「理想はこうだけれど、それが叶わなくても仕方がない」という余裕が生まれます。この余裕が、苦悩を軽くする第一歩になるかもしれません。

思い通りにいかなくても大丈夫

私たちはつい、「~しなければならない」と自分を追い込んでしまうことがあります。でも、その「~しなければならない」という思い込みが、実は一番の苦しみの原因になっているのかもしれません。

「越したことはない」という言葉には、「理想を持ちつつ、今の現実をそのまま受け入れる」という視点があります。この言葉が、日々の暮らしや悩みに対して少しでも心を軽くしてくれる助けになれば、と願っています。

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