過去にとらわれず、自由に生きる

森田療法

私たちはつい、物事の因果関係を直線的に考え、「こうなったのは、こういう理由がある」と説明したくなります。しかし、人生の出来事は無数の要因が複雑に絡み合って生じるものであり、単純な「原因と結果」の関係では説明しきれません

例えば、「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざがあります。これは一見、因果関係を示しているように見えますが、実際には途中の要因が恣意的に結び付けられているだけです。同様に、「○○があったから△△になった」と決めつけることは、私たち自身を不自由にしてしまうことがあります。

人間関係の出来事を力学で説明することの危険性

グレゴリー・ベイトソン(1904-1980)は、物理的な力学と生き物の相互作用の違いについて、石を蹴ることと犬を蹴ることの違いを例に説明しました。石を蹴れば、その動きは蹴った力や石の重さなどによって予測できます。しかし、犬を蹴った場合、その反応は単純な物理法則に従いません。なぜなら、犬は自らのエネルギーを持ち、蹴られたことを「情報」として受け取り、それに応じてすくむか、逃げるか、あるいは噛みつくかを決めるからです。

この考え方は、人間社会の出来事にも当てはまります。例えば、ある出来事に対して「こういう原因があったから、こうなった」と単純に考えることは、まるで石を蹴ったときのように出来事を予測可能なものとみなしていることになります。しかし、人間関係や社会の出来事は単なる力学的な因果関係ではなく、複雑な相互作用によって決定されます。「あの人があんなことを言ったから、私の人生がこうなった」と考えるのではなく、「その出来事があった上で、自分はどう考え、どう行動するのか」を選ぶことが重要です。

物語を作らずに、今できることに目を向ける

では、どうすればより自由に生きられるのでしょうか?

そのための一つの方法は、「ただ起こっていること」として受け止めることです。何かが起こったとき、それを無理に過去の出来事と結びつけず、「今の自分はどうするか?」に意識を向けるのです。

例えば、「吐き気がするから学校に行けない」と考えると、「吐き気がなくならない限り行けない」という固定観念が生まれます。しかし、「吐き気がするのは事実だけど、行くかどうかは別の話」と考えることで、選択の幅が広がります。

また、「過去にいじめられたから人が怖い」と考えると、「その経験を克服しなければ人と関われない」という思い込みが生まれます。しかし、「人が怖いのは事実だけど、どう関わるかは今の自分が決められる」と考えれば、少しずつ行動を変えていくことができます。

「ストレス」「トラウマ」に縛られない

近年、「ストレス」や「トラウマ」という言葉が広く使われるようになりました。確かに、過去の経験が現在の自分に影響を与えることはあります。しかし、「これはストレスのせいだ」「トラウマのせいだ」と決めつけることで、逆に可能性を狭めてしまうこともあります。

「ストレスがあるのは事実。でも、それが原因かどうかは分からない」
「過去に嫌なことがあったのは事実。でも、それが今の自分にどれだけ影響しているかは決めつけなくていい」

こう考えることで、余計な制約から解放され、より柔軟に行動できるようになります。

過去に縛られず、今を生きる

私たちは過去の出来事を基に物語を作りがちですが、その物語が必ずしも正しいとは限りません。むしろ、物語を手放し、「今ここ」でできることに集中することで、過去へのとらわれから自由になることができます。

起こったことを無理に意味づけせず、ただ「今の現実」として受け止める。そして、その状況の中で「今、自分にできることは何か?」と考える。こうした姿勢が、より自由で生きやすい人生につながるのではないでしょうか。

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