日々の生活の中で、私たちはさまざまな人と関わります。その中には、長い付き合いがあるけれど、どこかモヤモヤした関係を抱えることもあるでしょう。ある患者さんとの対話を通じて、そんな人間関係を「リンゴ」に例えてみました。
虫食いリンゴを手放せない理由
その患者さんには、長い付き合いのある知人がいます。しかし、その知人は自分の都合を優先し、一方的に物事を押し付けてくることが多いそうです。お互いに助け合う「持ちつ持たれつ」の関係が成り立たず、付き合いが負担になっていると感じていました。
それでも、その方との縁を自ら断ち切るのは忍びない。そんな気持ちの中で、不快感を抱えながらも関係を続けているのです。
私は、その状況を「虫食いリンゴ」に例えて話しました。
「あなたは、そのリンゴが虫に食われていることに気づいています。でも、一度手にしたものだから、まだ食べられる部分もあるし、捨てるには忍びないと思っているのでしょう。」
無理に捨てようとしなくてもいい。ただ、自分の気持ちや感覚を大切にしながら、ふと周りを見渡してみてください。すると、気づくはずです——新しいリンゴがあなたに向かって投げられていることを。
新しい縁をつかみ取る
人間関係は、まるで果樹園のようなものです。気づけば、あなたの手元にはいくつものリンゴが投げられてきます。その中には、みずみずしくおいしそうなものもあるはずです。
もし目の前に、そんな新しいリンゴがあったら、ぜひ手を伸ばしてつかみ取ってみてください。それが新たな縁です。
そして、そうしているうちに、気づくでしょう。
「いつの間にか、自分はおいしいリンゴをたくさん抱えていて、虫食いリンゴを手放していた」と。
行動を変えることで見える景色
この患者さんは、「関係を断ち切らなければならない」という考えと、「でも捨てるのは忍びない」という思いの間で苦しんでいました。
心理療法にはさまざまなアプローチがありますが、森田療法では、考え続けるよりも「行動すること」に重きを置きます。
例えば、友人や隣人、しばらく連絡を取っていない知人など、あなたの周りには新たな縁が行き交っています。その縁に手を伸ばすことで、自然と心地よい関係が築かれ、古い関係のしがらみが薄れていくこともあるのです。
診察では、その一歩を踏み出すための具体的な行動について対話を重ねています。
あなたにとっての「おいしいリンゴ」は?
私たちは、どんな人と関わるかを自由に選ぶことができます。
「これは本当に自分にとって必要な縁なのか?」と立ち止まって考えることも大切です。そして、自分にとって心地よい関係を築くために、新しいリンゴを受け取る勇気を持ってみませんか?
あなたが手にするのは、どんなリンゴでしょうか。
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