その地獄は、大海原のように広がり、底の見えない赤い液体で満たされていた。どろりと粘り気のあるその池の中を、私たちはただ浮かび続ける。そして、1日に1回だけ、たった10分間だけ、地上に上がることが許された。
休息の選択肢は二つ。
一つは、「お休み処フカフカ」。そこでは、ふかふかのマットの上で至れり尽くせりのマッサージを受けられる。心地よく体を預けるだけで、束の間の安らぎを得られる場所だ。
もう一つは、「お休み処ビシバシ」。そこでは、鬼コーチが待ち構え、泳ぎの特訓が始まる。「休むどころか修行じゃないか」と思えるほどの厳しいレッスンが繰り広げられるのだ。
私は迷わず「ビシバシ」を選んだ。休み時間なのに、身体を動かし、必死に泳ぎ方を覚える。鬼コーチの罵声とともに繰り返される訓練。やっと10分が過ぎたと思うと、再び血の池へ突き落とされる。だが、私は試した。教えられた泳ぎ方を。少しずつコツを掴みながら、繰り返し挑戦した。
数日後、私は血の池で自由に泳げるようになり、むしろこの環境を楽しめるようになっていた。赤い液体に沈むのではなく、流れに乗り、軽やかに動ける自分がいた。
一方、同じく血の池に落とされたA君は、「お休み処フカフカ」ばかり利用していた。ふかふかのマットで心地よくマッサージを受け、10分間の楽園を満喫していた。だが、再び血の池に戻ると、彼は苦しそうな顔をしながら、次の休み時間を待つばかりだった。
私は彼に「ビシバシ」を勧めた。「泳ぎを覚えれば、この池でも苦しまずに過ごせるよ」と。しかし、彼は首を振り、「せめて休み時間くらいは気持ちよく過ごしたい」と言った。
やがて私は、この地獄から旅立つ時を迎えた。
泳げるようになった私は、この環境に別れを告げ、次の地獄へ向かうことにした。自らの選択によって、地獄は試練にもなり、成長の場にもなる。
さて、あなたなら、どちらを選ぶだろうか?
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