短篇:地獄めぐり

文学・芸術

私は暗闇を歩いていた。どうやら死んだらしい。

気がつくと、目の前には一つの机があり、その向こうには大きな赤い顔の男が立っていた。その威圧的な姿に圧倒されながらも、どうやら彼が地獄の番人らしいと察した。

番人は私を睨みつけながら怒鳴るように言った。

「お前は、生前、精神科医を名乗りながら病気でもない人間たちに薬を与え、俺たちが人間界に課した試練を妨害した。その罪により、これから地獄で49年間、とことん苦しみ抜くのだ。ただし、その地獄はお前に選ばせてやる。」

私は驚きつつも、恐怖心を抑えながら尋ねた。

「選ばせてもらえるのですか?どのような地獄があるのか教えてください。」

番人は大声で笑いながら答えた。

「ここにはありとあらゆる地獄が揃っている。針地獄や火炎地獄は有名どころだが、それ以外にも数千、いや数万、もっとあるかもしれん。俺にも数えきれないほどだ。」

その言葉を聞いた瞬間、私は不思議と恐怖よりも好奇心が湧いてきた。そして意を決して言った。

「それなら、ありとあらゆる地獄をできるだけたくさん経験させてください。49年間で巡れるだけ巡りたいです。」

番人は一瞬驚いたように私を見たが、すぐにニヤリと笑って答えた。

「いいだろう。好きに地獄を巡るがいい。さあ行け!」

そうして私は地獄めぐりを始めた。火炎地獄、氷地獄、飢餓地獄、毒蛇地獄……どの地獄も苦しみに満ちているはずなのに、不思議と次の地獄が楽しみで仕方がない。地獄めぐりとは、なんとも奇妙で奥深い体験である。

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