ランニングフォームから見る「連動性」の重要性と精神科治療への応用

仁泉堂医院

昨年、私はレースのたびに故障を繰り返す自分の課題を克服するため、ランニングクリニックに通い始めました。そのクリニックの院長である宮川浩太さんは、ランニングフォームについて非常に興味深い考えをお持ちで、ホームページには次のように記されています。

「『人間の体には個体差があり、このフォームで走れば良いという正解はない』ということです。」
「日本人は姿勢やたたずまいを重視する精神文化が根付いており、その結果“理想のランニングフォーム”を作って、それを追い求める傾向が強いのかもしれませんが、画一的な『理想のフォーム』は存在しないと考えた方がいいでしょう。」

この言葉に深く共感した私は、宮川さんのアプローチを信頼し、その指導を受けることを決意しました。

宮川さんの考え方の中核には、「ランナーが持つ筋肉や運動経験をいかに連動させ、効率的に走るためのフォームを作るか」という視点があります。それぞれの筋肉が連携し合い、その人にとって最も自然で効率的な動きを生むフォームこそが「理想のフォーム」である、というわけです。

この「連動性を重視する」視点は、精神科の治療にも通じると私は感じています。

精神機能の「連動性」を高める治療

精神科治療においても、患者さんがこの世界で生きるために発揮する心の機能(精神機能)を、どのように連動させていくかが重要です。知的能力や感情、考え方の特徴、過去の体験(ポジティブなものも、困難なものも含めて)、さらには身体の使い方や感覚の鋭さといった要素が互いに支え合いながら、個々の患者さんにとって効率的な「心のフォーム」を作り上げるのだと思います。

一方で、精神機能の一部分を「問題」とみなし、それを平均や画一的な「理想」に近づけようとする治療は、必ずしも患者さんにとって有効とは限りません。私は、むしろ各機能の連動性を高め、全体として効率的な精神機能を引き出すことを目指したいと考えています。

薬物療法ではなく対話と行動を中心に

薬物療法は、精神機能の一部に介入することで症状を緩和する方法ですが、それはあくまで部分的なアプローチです。私のクリニックでは、薬を使わず、対話や生活活動、作業や運動といった行動処方を通じて治療を行っています。その目指すところは、各機能が連携し、患者さんがこの社会でより自然に、効率よく生きられる「心のフォーム」を一緒に作り上げることです。

ランニングフォームにおける宮川さんの考え方と、私の治療方針は、異なる分野ながらも同じ「連動性」を重視する点でつながっています。それぞれの人が本来持つ力を最大限に引き出すために、個別性を尊重し、全体としての調和を目指すアプローチ。この視点が、患者さんやランナー一人ひとりの可能性を広げる鍵になるのではないかと思います。

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