精神科の診断は、身体疾患と違って症状に基づいて行われます。しかし、この「症状」というものは、一口に定義しきれない「裾野の長い山」のようなものです。どこまでを山と呼ぶのか、その範囲をどこで線引きするかによって、診断が異なってくるのです。
まず、「器質性精神疾患」と呼ばれる疾患概念があります。これは脳腫瘍や内分泌疾患など、体の明確な異常によって引き起こされるもので、原因となる疾患を治療すれば精神的な症状も改善します。こうしたケースでは、身体疾患の一症状として扱うことが多いです。
また、統合失調症や双極性障害などの典型的な例では、患者さん自身が心の変化に気づけず、普段の生活や社会的な役割を保つことが難しくなる場合があります。この場合は周囲の人々も異変に気づきやすく、診断も比較的明確です。
しかし、これらの疾患でも、症状が軽度である場合や一時的に似た症状が現れる場合もあります。そうなると、山の裾野がどこまで続くのか判断が難しくなり、診察するタイミングや医師によって診断が変わってくるのです。
特に、うつ病の診断にはこうした難しさが顕著に表れます。典型的な例であれば比較的診断は容易ですが、軽度のうつ状態や一時的な気分の落ち込みなど、山の裾野ともいえる部分まで含めるかどうかで、医師によって判断が異なります。私はうつ病の診断範囲を狭く捉える傾向があり、例えば産後うつを除けば、40歳未満の方にうつ病と診断することはほとんどありません。
このように、精神科の診断は身体疾患のように明確な境界があるわけではなく、裾野が広がる山のように、その範囲の設定が診断を大きく左右します。不安症(神経症)や発達障害といったさらに多様な診断についても、後日お話しできればと思います。
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