ある患者さんとの対話で、印象的なやり取りがありました。その方は、これまでうまくいっていたと感じていた人間関係で、突然「ハシゴを外されたような感覚」になり、これまでの自分の人間関係の結び方に迷いが生じた、と話していました。
私は、「ハシゴをかけるには支点が2箇所必要ですね」と返しました。すると、その方は少し考えた後、「相手側の支点は自分ではどうにもできないですね」と言いながら、何かに気付いたようでした。
その後の対話は興味深いものでした。その方は、自分自身がこれまで神経質さが少なく、むしろ猪突猛進なところがあったと振り返り、これからは不安を感じる時間を持つことも必要ではないか、と話されました。そして、周囲の人の「心配性」や自分の不安を、今までよりも大切に扱うことで、人間関係や人生そのものがより豊かになるのではないか、という考えに発展していきました。
この対話は非常に興味深かったですが、振り返ってみると、私が「支点が2箇所必要ですね」と返したところで、別の問いかけもできたかもしれません。
「あなたのいうハシゴとはどのようなハシゴですか?」や「そのハシゴは何でできているイメージでしょうか?」と聞いてみることで、違った展開が生まれたかもしれません。
私はどうも物事を概念として捉えがちで、ハシゴも「2つの点で支え、その間を渡れるもの」というように考えてしまいます。物の「質感」やその持つ魅力についての感覚が鈍いところがあるように感じます。
物の質感やその素敵さをもっと意識することで、私自身も人生のバランスが取れるのかもしれません。
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