ある患者さんの息子さんが遠方で緊急手術を受けることになり、担当した外科医がたまたま群馬出身だったそうです。その医師は親切で丁寧に説明をしてくれたと伺い、私は「それは縁がありましたね」と返しました。
この会話をきっかけに、私の中で「縁」と「運命」の違いについて考えが浮かびました。
「縁」とは、自分が世界とのつながりの中で果たす役割のことで、それは流動的で変化し得るものです。例えば、周りの環境が変われば自分も変わり、自分が変われば環境も変わるという相互作用があります。この考え方は仏教的な思想に基づいており、縁は状況や他者との関係性によって変わっていくものです。つまり、縁とは世界とのつながりを通じて自分に与えられる、常に変化し得る役割といえるでしょう。
一方で、「運命」という言葉には、あらかじめ決められた、変えることのできない固定的な役割という意味合いがあります。運命は、どんなに努力や工夫をしても避けられない、決定された道のように感じられるものです。縁が変化を許容するのに対し、運命は不変のものとして捉えられがちです。
森田療法において、「自然に服従する」や「境遇に柔順であれ」といった姿勢を実践する際には、この「縁」という概念を持っておくことが有用だと思います。縁を意識することで、状況が変われば自分も変わるという柔軟な視点を持つことができ、より現実に即した生き方ができるのではないでしょうか。
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