前回の記事では、「正論」には二種類あるという話をしました。
ひとつは社会的な価値観に基づく正しさ、もうひとつは自然や論理に基づく正しさ。
今回は、そのうち社会的な価値観と深く関わる、日本独特の概念、「本音と建前」について考えてみたいと思います。
日本人のバランス感覚
私たち日本人は、子どもの頃から「本音と建前」を自然に使い分けてきました。
建前とは、社会の中で「こうするべき」とされる振る舞いや価値観。
本音とは、それとは別に、自分の中にある素直な気持ちです。
もちろん、どちらか一方だけでは生きていけません。
建前だけで生きれば、いつか心が疲れてしまう。
かといって本音ばかりに従えば、社会の中で孤立してしまうかもしれない。
多くの人は、この両者を行き来しながら、うまくバランスを取って生きています。
しかし、そのバランスが崩れると、心の不調につながることがあります。
森田療法が示すヒント
森田療法では、「今、目の前の現実に従って行動する」ことを大切にします。
そこには、不安があってもいい、本音と建前の葛藤があってもいい、という前提があります。
「それでも、生きる」――
本音を持ちながらも、建前の中で行動を起こす。
不安を抱えながらも、目の前の作業に手を伸ばす。
この矛盾を丸ごと抱え込んで動くという生き方こそ、森田療法が示す「自然な生き方」なのかもしれません。
本音と建前は、矛盾しているようでいて、実は私たちの「生きる力」を支える両輪です。
大切なのは、それを無理になくそうとせず、「そのまま共存させていく」こと。
それが、心を健やかに保つためのコツではないでしょうか。
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