暗闇だから見えた、一歩の大切さ ― トレイルと心の共通点

精神医学・精神医療

先が見えないことは、不安かもしれない。

でも、見えないからこそ、心が折れずに進めることがある――。

真っ暗な山道を走り続けたレースの中で、私は大切なことに気づきました。

先月、私はトレイルランニングレース「Mt.FUJI 100 KAI 70K」に出場しました。

全長70km、累積標高3500mという過酷なコース。無事に完走できただけでなく、目標タイムよりも1時間早い、12時間24分でフィニッシュすることができました。

このレースの後半、およそ7時間は完全な暗闇の中。頼りになるのは、ヘッドライトが照らす数メートルの道だけでした。

もし昼間だったら、終わりの見えないつづら折りや、次々と現れる岩場の急登に心が折れていたかもしれません。

でも、視界が限られていたことで、むしろ「今、この一歩」に集中することができたのです。

「先が見えないからこそ、進める」という感覚は、私の臨床経験の中でもたびたび出会ってきたものです。

精神的につらい状況にある方は、先の見えない不安に押しつぶされそうになることが多いものです。

でもそんなときこそ、過去や未来から距離を取り、「いま、ここ」に意識を向けることが、心を守る力になります。

あるがままを受け入れ、目の前の一歩に集中する。

それは登山やレースに限らず、治療や人生そのものに通じる在り方かもしれません。

未来は、誰にも見通せません。

でも、不確かさを怖れすぎず、足元を見つめて一歩ずつ進む。

そんな姿勢が、やがて大きな変化や回復をもたらすことを、私は日々の診療の中で実感しています。

見えない未来に迷うときこそ、ヘッドライトのように、足元だけをそっと照らす心の明かりを思い出したい。

今日の一歩を大切にすることで、きっとまた、前へ進んでいけるはずです。

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