自然適応療法のルーツと、その独自性について

仁泉堂医院

―― 欧米の自然療法とは違う、日本生まれの「自然との向き合い方」

「自然適応療法」という言葉を、私たちは最近使い始めました。

名前から「ナチュロパシー」や「自然療法」といった欧米発のアプローチを連想される方もいるかもしれませんが、私たちの自然適応療法は、まったく異なるルーツと意図を持った、日本発の療法です。

1. 森田療法を土台にした「自然との向き合い方」

自然適応療法の出発点は、日本で生まれた精神療法、森田療法です。

森田療法は「あるがまま」の態度を軸に、不安や症状を排除しようとするのではなく、それらを持ちながらも生活に向かうことで、人間本来の力を引き出そうとする療法です。

ここで重視されるのは、「考え方」や「気づき」だけではありません。

むしろ、日常の生活行動を通して、体験的に態度が育っていくというのが森田療法の本質です。

掃除や仕事などの地に足のついた行動を継続することによって、意識と身体、環境との関係が自然に整っていくのです。

自然適応療法は、こうした森田療法の基本的な考え方と実践法を大切にしつつ、現代の生活環境に合うかたちで再構成しようとする試みです。

2. 欧米の自然療法との違い

欧米にも「自然療法」と呼ばれるものは多く存在します。

ナチュロパシー(自然治癒力を活かす代替医療)や、森林浴、アニマルセラピー、アロマセラピーなど、多くは自然の恵みを活用して症状を和らげることを目的としています。

これに対し、私たちの自然適応療法は、自然を「治療手段」として取り入れるのではなく、自然との関係の中で生き直すことそのものが目的です。

つまり「自然を利用する」のではなく、自然に自らを合わせていく姿勢に重きを置いているのです。

その過程で症状が軽くなることもありますが、それは「自然に順応した結果」であり、主目的ではありません。

また、欧米の自然療法は「セラピストによる技法の提供」を軸にすることが多いですが、自然適応療法では、生活行動や自然環境との関わりを通じて、自らの力を育むことが大切にされます。

これはまさに、森田療法の「生活を通した体験による変化」という考え方に通じています。

3. 現代における「自然」との関係を見直す

私たちは今、便利さや安全性を追求するあまり、自然からどんどん遠ざかっています。

気温や天気に左右されず、移動せずとも買い物ができ、SNSでつながる社会。

その一方で、不安や無力感、閉塞感を抱える人が増えています。

自然適応療法は、このような現代社会において、もう一度自然の摂理に身を委ね、生き方を調整し直すことを目指すものです。

それは必ずしも山にこもったり、自然食に徹することではありません。

診察室の中での呼吸や動作のワーク、日常の生活リズムの見直しなど、都市に暮らす人でも実践できる自然とのつながり方を提供しています。

私たちは、自然に抗わず、自然に甘えるでもなく、自然に適応するという姿勢を取り戻したいと思っています。

それは、森田療法が示してきた「あるがままの生活態度」とも響き合います。

この自然適応療法という新しい道を、少しずつ、丁寧に伝えていきたいと思います。

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