クリニックでの診察中、「前の先生は私には合わなかったんです」とお話しされる患者さんに出会うことは、決して珍しくありません。
確かに、人と人との間には「相性」というものがあり、会話がすれ違ったままでは、なかなか信頼関係を築けないこともあります。
日本の医療制度では、患者さんが自分に合う医療機関を自由に選べる仕組みになっています。そのため、「話しやすい」「安心できる」と感じる医師を選ぶことは、とても自然なことだと思います。
ただし、精神科においては、少し注意が必要な場面もあります。
というのも、生きづらさの背景にあるのが、その人自身の「コミュニケーションの取り方」「考え方の癖」「行動パターン」であることも多いからです。
このような場合、自分にとって“都合のいい医師”ばかりを選び続けてしまうと、今の生きづらさを変えるきっかけを逃してしまうことがあります。
むしろ、「なんだかしっくりこないな」と感じる医師とでも、対話を重ねるうちに関係性が少しずつ変化していく――そのような体験の中にこそ、新しい自分に出会えるチャンスがあるのではないでしょうか。
ですので、「この先生、ちょっと合わないかも」と感じたときでも、すぐに離れるのではなく、しばらく対話を続けてみることをおすすめします。
一方で、「この先生、私にピッタリだ!」と最初から感じる場合は、逆に慎重になるべきこともあります。それが、今の自分をそのまま肯定してくれるだけの関係だとしたら、成長の機会を失ってしまうかもしれません。
もちろん、そもそも対話の時間すら取れない医師では、話になりません。
でも、「少し違和感があるけど、対話ができる」と感じたら、それはむしろチャンスかもしれません。
心の問題と向き合うプロセスは、ときに居心地の悪さを伴います。けれど、その居心地の悪さこそが、変化への入り口なのかもしれません。
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