「どんなに苦しくても、今起きている現実を直視しなくてはいけないのですか?」
そう患者さんに問われたとき、私はこう答えました。
「目をそらすことは、さらに苦しさを増すことにつながるかもしれません」
このやり取りは、抗不安薬の減量を目指す患者さんとの対話の中で生まれました。
その方は、「薬が効かない」と話しながらも、「苦しくて、つい飲んでしまった」と報告されました。
そこで私は、「その薬は、あなたにとって何に有効だと感じていますか?」と問いかけました。
しかし、その質問に対する答えはすぐには出ませんでした。
その沈黙の中で、患者さんがふと問い返してくれたのが、冒頭の言葉でした。
患者さんは、私が抗不安薬の服用に否定的だと知っているので、薬を飲んだことを「悪いこと」として受け止めているようでした。ですが、大切なのは「善悪」ではなく、「現実に向き合うこと」です。
「飲んでもあまり効かないとわかっているけれど、苦し紛れに飲みました」
このように言葉にすることが、まずは大事なのです。
薬の効果が十分でないと感じながらも、「苦しさ100 → 99」でもよいから、何か対処しようと服薬した――。
その事実に向き合うことが、次の一歩につながります。
もし、薬の効果が「100 → 99」にしかならないのなら、それ以上に有効な方法はたくさんありそうですし、また、精神的な依存が身体的な依存よりも大きいことにも気づけるかもしれません。
今回、この患者さんが気づいたことは、次の2つでした。
- 「苦しいときこそ、現実を把握する必要がある」
苦しいときでも、自らの行動の選択権を持ち続ける必要があり、そのためには現実を把握することが大事。 - 「服薬を善悪で判断せず、まずは現実をそのまま受け止める」
「飲んでしまった=ダメ」ではなく、「飲んだ」という事実をそのまま受け止めることが大事。
この気づきこそが、患者さん自身の力を引き出し、新しい選択肢を生む第一歩になるのではないでしょうか。
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