ある患者さんが、別の医療関係者から
「仁泉堂の医者は思い切ったことをしましたね」
と言われたと話してくれました。
指しているのは、仁泉堂が薬物療法を一切行わないという方針です。
その時、私の口から自然に出たのが、
「安定を維持しようとすることは、自分で作った鉄格子の中に住むようなものです」
という一言でした。
■安定を守るほど、不自由になる
不安や揺れを避けるために“安定”を最優先すると、行動はどんどん狭まります。
森田療法の視点でいうと、
不安を避ける努力そのものが不自由を強めてしまう。
最初は“安全な場所”でも、そこに留まり続けるほど外へ出られなくなる。
それは内面に自ら作った小さな**鉄格子の部屋**です。
■薬を使わない方針は挑戦ではなく、自然な方向性
薬で状態を固定しようとするのではなく、
揺れたまま行動し、その反応を確かめる。
私はこれを、生き物として自然な流れだと考えています。
だから、薬を使わないことが「思い切ったこと」とは思っていません。
外へ向かって動くという方向に治療を置いているだけです。
■私も、仁泉堂も「安定」を目的にしていない
私は安定を維持するためではなく、
新しい場に身を置きながら日々の反応を観察して生きています。
仁泉堂医院も同じです。
固定化された安心を提供するのではなく、
私の動きとともに変化し続ける場でありたい。
仁泉堂は“安定を守る場所”ではなく、
外へ向かう作業を行う場所です。
■外へ出るか、小部屋にとどまるか
薬で安定を固める生き方もありますが、
私は外に向かって動き続ける方向を選んでいます。
それが「思い切ったこと」に見えるだけで、
実際には、
自然な方向へ動いているにすぎないのです。

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