野外災害救急法を学んで気づいた、心のケアに必要な“時間”の感覚

仁泉堂医院

先週、クリニックを数日お休みして、ウィルダネスメディカルアソシエイツ(WMA)が主催する野外災害救急法を学んできました。山岳地帯や災害時など、都市型の救急システムにすぐアクセスできない状況で、どう命をつなぐか——そのための理論と実践です。

受講者は、山岳ガイド、リバーガイド、山小屋の若いスタッフ、アウトドアイベント主催者、そして医師(麻酔科)の方々。共通していたのは、「いざという時に備えたい」という思いでした。

野外では緊急時ほど冷静ではいられないものです。だからこそ、決められた手順で、状況と傷病者を評価することが重要になります。数分以内に生命に関わる問題があれば、迷わず即時対応。次に起こる可能性も考えながら、救急システムにつなぐまでの流れを、屋外での実習を交えて徹底的に学びました。

■ この経験から気づいた2つのこと

今回の学びを通して、私は改めて2つのことを強く感じました。

① 命を守る技能を「専門家任せにしない」大切さ

野外では、そこにいる誰もが救助者になり得ます。

救急の知識や技能を身につけておくことは、専門家に依存せず、自分と周囲の命を守るための“責任の共有”でもあると感じました。

② 一方で、心や人間関係は「今すぐ解決しようとしない」ほうがうまくいく

身体救急が“数分”を争うのに対し、心や人の関係は、むしろ時間をかけなければ解決しないものです。

しかし昨今は、心の問題がすぐ医療へ誘導される風潮のせいか、まるで心の悩みが「救急と同じスピードで解決すべき問題」であるかのような誤解が広がっているように思います。

心の問題は、そもそも実体のあるものではありません。

多くは観念の中で作り上げられ、維持され、膨らんでいくものです。

だからこそ、焦れば焦るほど複雑化し、悪循環にも陥ります。

■ 医療者こそ、身体救急の“やり方”を心に持ち込まない

医療の現場にいると、どうしても身体の治療のように「原因を特定して、すぐ治す」という発想に引きずられがちです。しかし、心の問題に同じ方法を当てはめると、かえってこじれます。

心の悩みは、自然界の天候のように、

起きては流れ、やがて変化していくものです。

そこに医療が過剰に介入しすぎると、むしろ「固めてしまう」こともあります。

だから私は、心の問題をむやみに“医療化”しない姿勢も大切だと考えています。

■ おわりに

野外災害救急法は「いざという時に素早く動く技術」を学ぶ講座でしたが、その経験はむしろ私に、

“心の問題は急がないこと”の重要性

を再確認させてくれました。

身体は時に迅速な対応が必要ですが、

心は、時間とともに自ら変わる力を持っています。

仁泉堂では、その自然な回復の力を尊重しながら、必要なサポートを提供していきたいと思います。

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