診療をしていると、日々あらためて感じることがあります。
それは、「価値判断を加えず、ただ事実そのものを“こんなものだ”と見ることの大切さ」です。
私たちはつい、物事に「良い」「悪い」というラベルを貼ってしまいます。
しかし、よく見れば、良いも悪いも見る角度によって変わります。
表があれば裏があり、光があれば影もある。
どちらか一方だけを正しいと決めてしまうと、世界の半分を見失ってしまうのです。
たとえば、「いじめをなくそう」と語る先生が、職員室では新人の先生に冷たくあたることもあります。
「人を傷つけるのは悪いこと」と感じていながら、ついそれをしてしまう。
その不完全さもまた、人間なのです。
世界を見渡せば、戦争を「悪だ」と非難しながら、争いは絶えません。
人間が人間である限り、矛盾を抱えたまま生きていくのでしょう。
診察の場でも、「これは良いことですか?」「悪いことですか?」という質問をよく受けます。
けれど、その判断は、しばしば保留しておくしかありません。
なぜなら、良い悪いは立場によって変わるからです。
生じた事実を、ただ事実として眺める。
そこから次にどう動くかは、その後の課題です。
まずは、評価を離れて、現実をそのまま見ること。
それが、苦しみから自由になる第一歩なのだと思います。

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