追い込むことと休むこと、その狭間で育つもの

自然適応療法

ランニングの世界には「ポイント練習」と呼ばれるものがあります。心肺機能やスピード持久力を高めるための強度の高い練習で、コーチからはよく「追い込んでください」と声がかかります。

私自身、学生時代までは球技ばかりで、走る練習は専ら基礎体力づくり程度。ですから、トレイルランニングのチームに入って初めて「追い込む練習」というものを体験しました。

人間は普段、無意識のうちに自分の力をセーブしています。火事場の馬鹿力が出るのは、普段は出し切っていない証拠でしょう。ポイント練習では、そのセーブを少しずつ外していきます。繰り返すことで「平常時でもより大きな力を発揮できる」ようになるのです。さらに、限界近くまで追い込む場面では、身体が自然と無駄を省き、効率的なフォームをつくり出していきます。その積み重ねが、速く長く走れる身体をつくっていくわけです。

ただし、ここには大事な落とし穴があります。追い込むことは必要でも、「追い込み続けること」は危険です。頻度が多すぎれば、故障や疲弊を招き、やがてオーバートレーニング症候群に至ります。成長を願っての練習が、逆に成長を妨げてしまうのです。

文明が発展する以前の人間は、外敵や災害に追われ、何度も「限界に追い込まれる経験」を重ねながら生き延びてきました。現代社会では、そうした経験はむしろ不足しているように思います。だからこそ、多くの現代人には「意識的に少し追い込む機会」があった方が良いのかもしれません。

しかし一方で、プロやジュニアのアスリートはすでに日々追い込み続けています。その場合には、適切な休養こそが必要不可欠です。

結局のところ「追い込むこと」と「休むこと」、その両方が揃ってはじめて、人は成長できるのでしょう。走ることだけでなく、生きることにおいても。

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