自分を主人公とした物語を語る意義

仁泉堂医院

心の物語を語るということ

心の世界は、各人が持つ固有の物語です。

「最近はいかがですか?」という質問に、皆さんはどのように答えるでしょうか。診察室で私が行っていることは、それぞれの物語を語っていただき、その声に耳を傾けることです。

ただし、この「物語」が、自分を主人公としたものであることが大切だと考えています。他人の言動や周囲の環境を批評するような語りではなく、自分自身がどのように感じ、どのように行動してきたのかを描く物語こそが、心の世界を深く探る鍵になります。その物語には、時に危険な選択や後悔が含まれているかもしれませんし、あるいは喜びや達成感に満ちた場面が描かれているかもしれません。

患者さんの物語を聞く際、私はそれらをひとつの物語として受け止め、登場人物の感情や行動に共感しながら耳を傾けています。

治療としての「物語の読み直し」

物語はときに悲劇的であったり、世間に好まれないテーマを含んでいたりします。それでも、私がその物語を書き換えることはできません。また、治療の場では、私自身の善悪の判断をできる限り持ち込まないよう心がけています。

治療的な介入のひとつとして、私は患者さんに自身の物語をあらためて読み直していただくことを目指しています。そうすることで、物語の中の言葉遣いを少し変えてみたり、これまで気づかなかった今後の展開を想像したりする余地が生まれます。このような作業を通じて、物語はより豊かで新しい可能性を帯びるようになります。

自分の物語を語るということ

そのため、診察では患者さん自身に自分を主人公とした物語を語っていただくことを大切にしています。自分を主人公とした語りができると、治療はより深く、より意味のあるものになっていきます。

限られた時間を活かすために

初診の方の診察時間は50分程度、2回目以降は10~20分程度です。限られた時間の中ではありますが、診察ではぜひ、ご自身を主人公にした物語を語ってみてください。その物語こそが、治療の出発点となるのです。

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