会話が苦手だと感じる方へお伝えしたいことがあります。診察室では、気持ちや感情、考え方について話す機会が多いですが、こうした深い話は限られた場所や関係の中でしか成り立たないものです。私たちは皆、心の内を語れる相手が多いわけではなく、それも語れる関係が築かれるまでに時間がかかることがほとんどです。
もし「自分の気持ちや考えをきちんと伝えたい」と思いすぎているなら、一度、目に見える物事について話すことから始めてみてください。たとえば「どんよりした曇り空ですね」とか「今日は赤城山がよく見えますね」といった、シンプルな観察を口に出してみるのです。会話が続かなくても構いません。聞いた人がどのように反応するかも、自然に任せてみましょう。曇り空や山の景色に、それぞれが異なる思いを巡らせたり、一瞬だけ関心を向けたりするかもしれません。そこから自然と話が広がることもありますし、相手との距離感も少しずつ見えてくるでしょう。
また、反対に誰かが何か言葉を発したら、まずはその言葉に注意を向けてみることも大切です。その言葉に思いを巡らせても、さっと流しても、そこから何かを連想しても良いのです。
会話はすべてを伝える場である必要はありません。まずは、目の前に見えるものについてつぶやくような気持ちで、一歩ずつ試してみてください。
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