精神科の診察では、患者さんの内面を理解するための大切な手がかりは「言葉」です。しかし、言葉というのは単に表面的な意味だけでなく、背景に深いイメージや経験が含まれていることが多くあります。
例えば、ある患者さんが「もう頑張りたくない」と言った場合、私自身が「頑張る」という言葉を使う時には、大学受験やマラソンのゴールを目指して努力を続けた場面を思い浮かべるかもしれません。しかし、その患者さんにとっての「頑張る」は、全く異なる意味を持つ可能性があります。もしその患者さんが過去に家庭や学校で抑圧されながら耐え忍んだ経験があるとすれば、「もう頑張りたくない」という言葉は、「もうあの苦しい日々に戻りたくない」という強い感情が込められているかもしれません。
このように、同じ言葉でも、それが意味するものや引き起こす感情は人それぞれ違います。そのため、精神科の診察では、言葉に込められたメタファーに細心の注意を払い、患者さんの話をじっくりと聞く必要があります。言葉の背景にある意味を探る作業には、時間と集中力が必要なのです。
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